kai8787の日記

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【本の記録・感想】記憶の遠景

誰にでも思い出したくない過去はある。それが吐き気やめまいを伴うようなトラウマだということもあるだろう。起こった事実は変えられないが、その解釈は時が経つにつれ変容していく。

トラウマ体験を昔の嫌なことの1つとして〈過去の引き出し〉にしまえるようになれたら、少し救われるかもしれない。

そして、辛い体験を語れないままでいるよりは、信頼できる誰かに話せた方が楽になれるのではなかろうか。

体験を語ることで、〈過去の引き出し〉にしまえるように少しずつ整理されていく。決してすんなり一気に落とし込めるわけではないけれど、自分の体験を物語ることは、一枚ずつ薄紙をはがすくらいの速度で冷静になっていかないとできないことだから。話せるのはとても大事で大変なことなのだ。

ほんの少しだけ自分を許せる(あるいは他人を許せる)ように変わっていくかもしれない。許せないまでも、ある鮮明さを失って、輪郭をぼやけさせることができるかもしれない。

過去を捨て去るのではなく、きちんとしまって今を生きていけば、過去の意味を変えられるのだと思う。私のめまいはごくごく稀に起こるだけになった。

平野啓一郎『マチネの終わりに』より

「人は、変えられるのは未来だけだと思い込んでる。だけど、実際は、未来は常に過去を変えてるんです。変えられるとも言えるし、変わってしまうとも言える。過去は、それくらい繊細で、感じやすいものじゃないですか?」

マチネの終わりに

マチネの終わりに