【本の記録・感想】ふと再会してみたくなる
久しぶりに村上春樹の小説を読もうかと思う。過去、集中的に何度も繰返し読んでいた時期があったけれど、ある時からパタッと読まなくなった。
村上の翻訳書『キャッチャー・イン・ザ・ライ』が原因だ。本屋で手に取って最初の1ページを読んだところで置いてしまった。村上春樹臭を強く感じて、上手く説明できないけれど、凄く嫌な気分になってしまったのだ。
たぶんサリンジャーの本なのに村上春樹の文体で書かれていることに我慢できなかったのだろう。いや、文体とまでは言い過ぎか。何しろ1パラグラムしか読んでいないのだから。
ただ、無機質に佇む砂のようなサリンジャーが好きだった私には、慣れ親しんで湿り気を帯びた村上の文章に違和感を禁じ得なかった。
読者というのは勝手なもので、それ以来村上作品を読みたくなくなった。
しかし、内田樹の本を読んで、懐かしさのあまり、また村上ワールドに出かけてみたくなった。
ごく平凡な主人公の日常に不意に「邪悪なもの」が闖入してきて、愛するものを損なうが、非力で卑小な存在である主人公が全力を尽くして、その侵入を食い止め、「邪悪なもの」を押し戻し、世界に一時的な均衡を回復する
そう、要約するとそんな感じになる。ただ、私が村上作品を読んでいて浸っていたのは、主人公がひたすら“ちゃんとした大人の振る舞い”を崩さないところだったのかもしれない。
物語の中に常識からの逸脱は凄くあって、現実世界とアンダーワールドもよく交錯して、それも面白いのだけれど、その中できちんと考えて生きている人を感じるのは心の安定にとても効くのだ。
それから、この本の中でトラウマについて言及しているので、そこもメモ替りに引用しておこう。
人間の精神の健康は「過去の出来事をはっきり記憶している」能力によってではなく、「そのつどの都合で絶えず過去を書き換えることができる」能力によって担保されている。
トラウマというのは記憶が「書き換えを拒否する」病態のことである。
少し前のエントリー「記憶の遠景」でぼんやり考えていたことがスッキリ書かれている。
記憶の遠景 - kai8787の日記
物語の力によって過去の記憶から脱出できるだろうか。
- 作者: 内田樹
- 出版社/メーカー: アルテスパブリッシング
- 発売日: 2010/11/19
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