蒼い森のなかで憩う
ときどき、人混みの中でひどく孤独を感じていたたまれずにひとしきり部屋に籠ることがある。そういう時は自分とかけ離れた世界に飛び込みたくなって集中的に読書をする。二転三転する物語ではなくて、静物画のような物語を欲しているのだ。
宮下奈都『羊と鋼の森』は、一言で表現すると静謐。読んでいる間、蒼いひっそりとした森のなかで遠くからピアノの音が聴こえてくるような感覚を味わうことができた。

- 作者: 宮下奈都
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2015/09/11
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心象風景として思い浮かべたのは、東山魁夷の『緑響く』という絵。
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新人ピアノ調律師の青年の心がピアノの繊細な調律とリンクして、淡々と丁寧な筆致で描写されていく。まるで青年のまだ幼い白い首筋が見えるようだった。青年が憧れる先輩調律師が原民喜の言葉を紹介している。とても素敵な文章なので思わず抜き書きした。
明るく静かに澄んで懐かしい文体、少し甘えているようでありながら、きびしく深いものを湛えている文体、夢のように美しいが現実のようにたしかな文体
調べてみると、これは原民喜が堀辰雄の文章を評した『砂漠の花』の中の一節。宮下奈都さんもこういうものを目指しているのかな。
そして、読み終わって静かな気持ちになった私の中ではドビュッシーのベルガマスク組曲(特に第3曲の『月の光』)が鳴り出した。
ドビュッシー - ベルガマスク組曲 「前奏曲」「メヌエット」「月の光」「パスピエ」 アース - YouTube

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