感情の穴に落ちたときには
私はどちらかというと悲観的な人間だ。ただ、割りと単純な性格なので日々のちょっとした幸せを感じて、将来の不安をまぎらわして生きている。
楽観的とか悲観的な性格というのは、やはり生来のものなのだろうか。若くてエネルギーに満ちていても悲観的な人はいるし。
楽観的な人には根拠のない自信がある。今日とか明日とか、せいぜい一週間くらいのことを思って生きている人が多いと思う。
反対に悲観的な人間というのは、先のことまで考え過ぎてしまう。一見何かしら根拠があるように思うけれど、一寸先がわからないのが世の常なので、こちらもあまり根拠がないといえばないのだ。
あんまり先のこと考えても仕方がないと分かっていても、気がつくと落ち込んでいることがよくある。こういうのは理屈じゃなくて、もう脳の癖みたいなもので仕方がないのかなぁ。
今日読み終わった村上春樹の『東京奇譚集』にこんなセリフがある。
「嫉妬の気持ちというのは、現実的な、客観的な条件みたいなものとはあまり関係ないんじゃないかという気がするんです。つまり恵まれているから誰かに嫉妬しないとか、恵まれていないから嫉妬するとか、そういうことでもないんです。それは肉体における腫瘍みたいに、私たちの知らないところで勝手に生まれて、理屈なんか抜きで、おかまいなくどんどん広がっていきます。わかっていても押し止めようがないんです。幸福な人に腫瘍が生まれないとか、不幸な人に腫瘍が生まれやすいとか、そういうことってありませんよね。それと同じです」
負の感情が広がっていくと命を落とすこともある(このセリフを言った女子大生は自殺してしまう)。人はそこまで追いつめられるのだ。他人にその辛さが本当にわかることはない。
ときどき、そういう深い穴に落ちて、わぁーっとなってしまうことがある。感情の大波が押し寄せてきて、理性を凌駕してしまうのだ。そんなとき、この腫瘍の話を思い出してみよう。私の意志と関係なく、私を蝕んでいく様子を。そうすれば逆に、実体のない感情を手のひらに乗せて眺めることができるかもしれない。
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どの話も喪失をめぐる物語だ。個人的には先にセリフを引用した「品川猿」が、村上春樹らしい異世界があって良かった。
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