ふんわり、何となく、わかる。
絲山秋子『ニート』読了。
小説家になった「私」が、昔つき合っていた「キミ」のブログを見て、「キミ」が相変わらずニートであって非常に困窮していることを知る。
「私」もニートだったけれど、「物書きになりたいという夢だけで、世間にずいぶん許してもらっていた」。
「私」には「キミ」がニートでいるしかないことが、ふんわりとわかる。ニートにしかなれないと決めつけているわけではなく、すんなり働けると思っているわけでもない。
ただ、「キミ」がニートでいることが、何となく了解できるのである。この主人公の受け止め方に、私は人間の面白味を感じる。0か1かでなくゆるく受け入れることーー人間は弱い部分を誰しもが持っていて、それに共感できるところが少しずつある。だから、悩んだり、肩を叩き合ったりするんだろう。
この作品は、その辺りの微妙で繊細なこころのあり様を描き出しているように思う。
- 作者: 絲山秋子
- 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
- 発売日: 2008/06/25
- メディア: 文庫
- 購入: 2人 クリック: 55回
- この商品を含むブログ (59件) を見る
この短編集には表題作の「ニート」のほか、「ニート」の後日談となる「2+1」、女性同士の友情の距離感と切なさを綴った「ベル・エポック」、草野心平の詩が印象的な「へたれ」、スカトロマニアの気だるさが漂う「愛なんかいらねー」が収録されている。
蛙語で綴られる草野心平「ごびらっふの独白」の日本語訳も良かった。
幸福といふものはたわいなくつていいものだ。
おれはいま土のなかの靄のやうな幸福につつまれている。
地上の夏の大歓喜の。
夜ひる眠らない馬力のはてに暗闇のなかの世界がくる。
みんな孤独で。
みんなの孤独が通じあふたしかな存在をほのぼの意識し。
うつらうつらの日をすごすことは幸福である。
皆、孤独を抱えて生きている。でも、それぞれの孤独が通じあうということが確かにあるーーそんなことをぼんやりと嬉しく感じながら、なんとなく生きていく。それは幸せなことだ。
味わい深い詩である。
- 作者: 絲山秋子
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2005/10/29
- メディア: 単行本
- クリック: 9回
- この商品を含むブログ (180件) を見る