kai8787の日記

編み物と散歩と読書とダイエット

しばらく引きずるときもある

男性だからとか女性だからと一般化するのは良くないと思っている。ただ、私が読んできた中では、女性の作家が書いたものの方がずしりと重いものを私に残し、しばらくその重石が取れなくなることが多い。

男性で言えば松本清張などが似たような重石を投げてくる。そういうときは、その石が軽くなるまで、その作者の作品は読めなくなってしまう。

男性作家のものが軽薄だというわけでなくて、重さの種類が違うのだ。どう説明していいのか、わからないのだが、身体にずしんと来ちゃうか頭で消化できるかの違いというか。濃縮された闇に捉えられそうなぞわぞわした感じが毒々しいほどに残ることがあるのだ。

だからだいたい、私は女性作家の本を読んだら、次は男性作家の作品を読むことが多い。でも、今回、女性作家ばかりからなる短編集を手に取った。『甘い罠ー8つの短編小説集』だ。書き手は、江國香織小川洋子川上弘美桐野夏生小池真理子高樹のぶ子高村薫林真理子

この中では、高樹のぶ子の「夕陽と珊瑚」が比較的重い感じがした。どういうのが重いかというと、業を感じるもの、見たくない人間の本性を見せるものといったところだろうか。

例えば、高村薫の「カワイイ、アナタ」の中の一節。

私から逃げていく彼女たちは、揃いも揃って男の企みを見透かしているに違いない。色情に満ちた夢想を嗅ぎつけているに違いない。ああいや、ひょっとしたら彼女たちは自分が男の夢想にふさわしい無垢な生きものでないことを知っていて、それを見抜かれる前に思わせぶりに逃げていくのかもしれないーー。

この最後の一文などはちょっとドキリとしませんか?まぁ、これはさほど重い方とは言えませんが。

今回は短編なのもあって、しばらく読まないでいようと思うほどの重石は残らなかったけれど、それぞれの力量を感じさせる作品群でした。ただ、わざわざ書くこともないのですが、林真理子さんのは生々しい性描写が多くて、私にはちょっと苦手な種類の文章でした。

甘い罠―8つの短篇小説集 (文春文庫)

甘い罠―8つの短篇小説集 (文春文庫)

物語のリアリティー

本を選ぶときはタイトルに惹かれたりする場合もある。読んだことのない作家だと特にタイトルで手に取ることが多い。
中村文則『去年の冬、きみと別れ』もそんな小説の一つだった。

中村文則推理小説家だ。けれど、タイトルはそれっぽくなく感じて興味を持った。ミステリーが嫌いなわけでなく、ちょっと変わったミステリーが読めるかもという期待を持ったのだ。

結論から言うと、すごく構成が斬新で読みごたえのある作品だった。

この小説には複数の「僕」が登場する。だから、物語の後半で描かれる以下の部分を引用してもネタバレにはならないだろう。

僕はね、あの瞬間、化け物になってしまったんだよ。あの時、僕の身体が、自分から遠く遊離していくように思えた。僕が、僕から静かにずれて消えていく。その漠然とした恐怖を感じた瞬間、身体が拒否するように震えて、でも自分が今震えたと思ったときはもう、意識がどこかに落ちていくように冷えていた。僕に似た僕をあとに残していくことへの恐怖は一瞬のことだった。意識のバランスを保つブレーキのようなものを、もう感じることができなかった。

リアリティーのある文章だと思った。この本のなかに「芸術とは一種の暴露である」というセリフもあるけれど、推理小説の中でリアルを感じさせるには、丹念な取材の他に犯人の気持ちの模倣だけでない、作者自身の闇の開示・肥大化も必要なのではなかろうか。そして読者も自分の闇を意識して初めてリアリティーを感じるものだと思う。



去年の冬、きみと別れ

去年の冬、きみと別れ


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花言葉の物語ーミモザ

散歩の途中で、りっぱなミモザに出会いました。もう大分過ぎてしまいましたが、3月8日はミモザの日、国際女性デーでした。イタリアでは、日頃の感謝をこめて、男性が女性にミモザの花を贈るそうです。

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ミモザ花言葉は、「優雅」「友情」「秘密の恋」です。
例によって、花言葉を使った物語を書いてみます。


「あのさ、頼みがあるんだけど」
ヒロがその長い指を組み合わせながら話しかけてくる。午後3時の学食のテーブルは人がまばらで、声をひそめるほどのこともなく、二人で話ができる。僕はまた夕飯の支度でも頼んでくるのだろうと、ティーカップをソーサーに置いてヒロの方を向いた。
ヒロはいつものように屈託なく話し出すことはせず下を向いている。嫌な予感がした。

「誤解して欲しくないんだけど」そう言って口ごもる。先を促すような言葉が出てこなくて僕も黙っていた。
「俺たち、つき合い初めてもう2年になるかな」
別れ話だ、そう直感した。
「実はさ、本当に唐突で悪いと思うんだけど、しばらく距離を置きたいんだ」

僕たちは誰にも話せない悩みを抱えながら、秘密の恋を大切に育んできた。もうずっとこのまま、2人は離れることがないのだと僕は信じるようになっていた。だけど……。

「それは、もう決めたことなんだね」
「あぁ」

ヒロの真剣な眼差しが僕の胸を刺す。自分が遠くの方から二人を見ているようで、僕は宙ぶらりんに浮遊する。

「嫌いになったわけじゃない。他に好きな人ができたわけでもない。ただ、そういう期間が必要だと思うんだ」
「冷却期間ってことかな」
「うん、そうだけど…ちょっと違う。またつき合うかどうか決めるんじゃなくて、俺たちの間に友情が芽生えるかどうか知りたいんだ」
「友情?」
「恋人としてつき合わないってことと友情は両立できると思う」
「それはつまり、冷却期間じゃなくて終わりってことだよ」
「でも、俺はおまえと友人としてつき合いたいと思っている」
「どうかな。僕には今すぐうまく応えられそうもない。それこそしばらく会わないでいよう」
僕が立ち上がると、ヒロは何か言いたそうにしていたけれど、構わずに歩き出した。ヒロは追ってこなかった。

ありきたりの別れの場面だったねともう一人の僕が言った。

その通り、映画のような優雅さは微塵もない、痴話喧嘩レベルの別れ方だ。現実はこんなもの。

外に出るとミモザの花が咲き誇っていた。去年ヒロが誕生日に贈ってくれた花だった。明日、またひとつ年をとる。


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ふと気づいてしまった。

作家は、登場人物の名前をどのように決めているのだろうか。そう思ったのは、名前に色のついた人物を多く登場させている本に出会ったからだ。

ポール・オースター『幽霊たち』では、探偵のブルーがホワイトに頼まれて、ブラックという男を監視し続ける。ブラックは毎日窓際の机に向かって、本を読んだりノートに何かを書いたりする毎日を送っている。何の事件も起こらないまま時は過ぎていく。ブルーはその状況を変えようと動き出すのだが……。

ブルーの師匠の名まえがブラウン。もう、ここまで来るとかなり意図を感じる。ポール・オースターは『鍵のかかった部屋』で主人公にこんなふうに語らせている。

何より一番楽しかったのは、名前を考え出す作業だった。ときとして僕はとんでもない名前ーーものすごくコミカルな名前、駄洒落になっている名前、猥褻な名前ーーを使いたい衝動に駆られ、それを抑制するのに苦労した。でもたいていは、リアリズムの領域内の名前で満足していた。

さて、色のついた名前で思い出すのは、村上春樹『色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の旅』だ。主人公の高校時代、仲良しグループのメンバーは皆、色のつく名前だった。

もしかして、村上春樹ポール・オースターの『幽霊たち』から着想を得たのではないか。そう思ったのは2つの小説にもうひとつ共通点があるからだ。

両方に、主人公の彼女が見知らぬ男性と腕を組んで歩いているのを見かけるというシーンがある。オースターの方は彼女も気づく展開、村上作品では彼女は気づかずに通り過ぎていく。

確か、オースターと村上春樹は知り合いのはずなので、あながち私の過ぎた憶測ではないのではなかろうか。それとも、私が知らないだけでこれは村上のオースターに対するオマージュとして認知されていることなのかもしれない。

でもまあ、私としてはこれに気づいたことで、ちょっと得した気分になった。


幽霊たち (新潮文庫)

幽霊たち (新潮文庫)

関連エントリ
暗闇を語ることー希望 - kai8787の日記
【本の記録・感想】欠落と再生 - kai8787の日記

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惰性OK

よく「毎日惰性で暮らしてる」って嘆いてる人がいて、もっと有意義なことをやりたいという思いがあるんだろうけれど、私は惰性で暮らせるなんてスゴいことだと思う。

顔を洗う、歯を磨く、ご飯を食べる、出かける、お風呂に入る、……。そういう一つひとつが今の私にはとても大変なので、惰性でできちゃう人は健康でエネルギーがあるなぁと思うのがひとつ。

そして、惰性でできること、つまりルーティーンを持っているって、実はそれだけで強みなんじゃなかろうか。

私の友人に、DVから逃れてウィークリーマンションに逃げ込むという体験をした人がいる。彼女は日常を崩さなかった。毎朝同じ時間に起きてシャワーを浴び、朝食をとり、テレビをつけて、歯を磨き、読書をする。午後は昼寝をし、食料を買いに出かけ、夕食を食べて、水割りを飲みながら読書するかテレビを見る。そして決まった時間に就寝する。そういうルーティーンをあえて保ったそうだ。

何か日常とは異なる事件が起きたとしても、ルーティーンをこなしながら、少しずつ日常の自分を保ったり取り戻していくことができる。それは、とても大事なことだと思う。「習慣は何よりも感覚を鈍らせる」というセリフが今読んでいる本に引用されていたのだが、習慣は何よりも感覚を整える、とも言えるのではなかろうか。

私はなかなかルーティーンが組めない。昨日と違って今日できることをやっていくしかない。そう、毎朝、今日できることを見つけて優先順位をつけるのが私の小さな習慣だ。

それでも、3月に入ってだいぶ出来ることが増えてきた。嬉しいな。そんな大したことでは全然ないのだけれど、できるとやっぱり「良かった」って思う。

惰性でできるようになるまで回復できたらいいな。だんだん暖かくなるように、少しずつ少しずつ。

体調が良い日が段々増えているのは間違いないのだから、後は無理してまた寝込まないようにしようと思う。



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パンクな話に元気をもらい、そしてびびる

物わかりのいい子、家族の調整役、それが私の役まわりだった。だから、ときどき、盛大におもちゃ屋で駄々をこねる兄や、私をひっぱりまわして何軒もショップをまわり自分が納得するまで絶対服を買おうとしない妹の、バイタリティあふれる自己主張がまぶしかった。


栗原康『村に火をつけ、白痴になれ』は単なる評伝ではなく、過激でパンクな伊藤野枝賛歌だ。伊藤野枝は「大正時代のアナキストであり、ウーマンリブの元祖ともいわれている思想家だが、1923年9月、関東大震災のどさくさにまぎれて、恋人の大杉栄、おいっ子の橘宗一とともに憲兵隊の手にかかって殺されてしまった」女性である。

読み始めたとき、岩波書店だし、政治学者が書いた本だと聞いていたので、すごく固い本じゃないかと思っていたが、もう全然ちがった。荒削りな文章とパンキッシュな言葉の海だ。

ちょっと目次から拾ってみると、こんな感じである。「もはやジェンダーはない、あるのはセックスそれだけだ」「恋愛は不純じゃない、結婚のほうが不純なんだ」「青踏社の庭にウンコをばら撒く」「もっと本気で、もっと死ぬ気でハチャメチャなことをかいて、かいてかきまくれ」

これだけで、もうお腹いっぱい勘弁してとなりそうだったけれど、がんばって読み進んでみた。パンクな文体に慣れたら、それにつれてどんどん面白くなっていき、そしてびびりまくる私。

古い家制度に立脚した結婚を奴隷制度だと喝破し、親戚に決められた結婚をふり切り、好きな男のいる東京へ突っ走る野枝。そんな嘘臭い道徳なんかくそ食らえ(失敬!)なのである。

野枝さんの迫力についていくのがやっとだ。あの時代、恋愛に純粋に向き合い、とことん自分の気持ちに正直に生きることは、本当に物凄いバッシングにさらされる。けれど、野枝さんはそんなのお構いなしなのだ。離婚するときに散々迷惑をかけた実家や親戚にも、妊娠したときにはしっかり頼る。そのあっけらかんとした図太さは、「困った人を助けるのはあたりまえ」という信念から生まれている。

そんな野枝さんを絶賛し応援し続ける著者は、アナキズム研究家であるとともに、結婚制度反対、いかなる形の恋愛も自由だと主張してやまない。だから、辻潤と結婚している野枝を口説こうとする大杉栄が、同棲している女性からこっぴどく叱られてしょげていると「どんまい」と励ます。

なんだか、とめどもなく人間的なのである。困っている大杉を野枝が助け、その野枝をまた周りがたすける。その循環。

アナキズムの理想は、どこかとおい未来にあるんじゃない。ありふれた生の無償性。人が人を支配したりせずに、たすけあって生きていくこと。それはいまここで、どこでもやっていることだ。

お金がなくちゃ何もできないとう人は、裏を返せば人を信頼していないということになるわけか。なるほど、アナキズムって人への限りない信頼感に裏打ちされているものなのかな。


とまれ、道徳や正義を振りかざして「弱いものがより弱い者をたたく」昨今の風潮や、私の特にダメな部分(空気を読みすぎるところ)を思いっきり意識化してくれた。
アナーキストたちの過激さにびびりながら読み終わったのだけれど、久しぶりに頭をスコーンとやってくれる本だった。

村に火をつけ,白痴になれ――伊藤野枝伝

村に火をつけ,白痴になれ――伊藤野枝伝



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うさぎさんに会いに

今日はお友だちが「うさフェスタ」に連れていってくれました。可愛いうさぎさんグッズがいっぱいあってテンションあがりました。


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うさぎさんを連れている人もたくさん。私のとこのうさぎさんは、もうお月さまに帰ってしまったので、うらやましい……。


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卓上カレンダーをちゃぶ台の下にひっぱりこんで破壊してるところ。いたずらっ子だったなぁ。


さ、淋しい。でも、ぽっかり空いた胸の穴のなかにしっかり居てくれるのでいいんだーい。


色々悩んだあげく、バッグチャームと缶バッジを買いました。


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きらきらうさぎさんのバッグチャーム


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凛々しいうさぎさんの缶バッジ




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