ただ信じる、それが勇気
今日は具合が悪くて臥せっている。とても良い天気で日当たりのよい部屋は昼間の暖房がいらないくらいだ。
このところ体調もだいぶ良かったので、今日からボランティアに復帰できるかなぁと思っていたが、今朝はしんどくて起きられず、出かけるのを断念せざるを得なかった。
こんなふうに当日にならないと体調がわからなかったり、行きつ戻りつというのが、ボディーブローのように効いてくる。
こういうことは何度も経験してるのだけれど、不安に打ち勝つのは簡単ではない。「もう復帰できないのではないか」「いつ出てこられるのかわからないのでは、皆に迷惑なのではないか」そんな思いが心をよぎる。
でも、ボランティア仲間は待っていてくれる。「出てこられるときに来ればいいよ」と言ってくれる。あたたかく待っていてくれるのだ。
私が仲間を信じることが大切なことなんだと思う。自分を責めることは、仲間の思いを裏切ることだからだ。私が私を責めることを誰も望んでいない。
いまはまだ悲しくて、すっかりそう納得できないけれど、また、体調が良くなる時が必ず来ると信じよう。そして勇気を失わずにいよう。焦るな、自分。
辞書っておもろいんですね【恋愛】
辞書っていうと、やはり高校生の頃に一番よく使っていたかなぁ。私のはセキセインコにかじられてボロボロになっていた。友だちには調べた英単語にマーカーで印をつけてピンク色になってるコや、辞書を1枚1枚くしゃくしゃにすると引きやすくなると教えてくれるコもいて、何だか懐かしい。
サンキュータツオ『学校では教えてくれない!国語辞典の遊び方』は、辞書の奥深さを教えてくれる。
例えば、新明解国語辞典での恋愛の項がおもしろい。
れんあい【恋愛】
初版
一組の男女が相互にひかれ、ほかの異性をさしおいて最高の存在としてとらえ、毎日会わないではいられなくなること。
毎日会わないではいられないって、すごいな。これが版を重ねるごとに変わっていき、第五版になると、バージョンアップがはなはだしく、こうなる。
(第五版)
特定の異性に特別の愛情をいだき、高揚した気分で、二人だけで一緒にいたい、精神的な一体感を分かち合いたい、出来るなら肉体的な一体感も得たいと願いながら、常にはかなえられないで、やるせない思いに駆られたり、まれにかなえられて歓喜したりする状態に身を置くこと。
辞書にこんなこと書いてあるなんて知らなかったなぁ。おもしろい。
ちなみに、岩波国語辞典の場合は
男女間の、恋いしたう愛情。こい。
これだけ。さすが岩波。武骨で揺るぎない。
新明解は面白いな。あとなるほどと思ったのはこれ。
こうぼく【公僕】
〔権力を行使するのではなく〕国民に奉仕する者としての公務員の称。〔ただし実情は、理想とは程遠い〕
最後の一文がなかなか鋭い。いや、これは辞書として言葉のニュアンスを伝えようという真摯な取り組みなのだろうけど。ウケた。
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書くことで失われるもの
フランツ・カフカは迷う人である。本を出したいと思いながら、出版が決まりそうになるとやっぱり出したくないと思ったり、結婚を申し込んだ女性から承諾されると、自分がいかに結婚生活に向いていないかを延々と手紙に書くといったぐあいに。
迷い続ける=決断できないというのは、一見短所のように思うけれど、それは妥協しない強さでもある。
頭木弘樹『カフカはなぜ自殺しなかったのか?弱いからこそわかること』では、カフカの手紙や日記を年代順に追いながら、死にたいと苦しみながらも自殺未遂も起こさずに生き抜いたカフカの人生を振り返っていく。
カフカが持ちこたえたのは、書いていたからというのもあるんじゃないだろうか。特に手紙は、恋人に対して毎日書いていたようだ(そして少なからず彼女からの返信もあった)。日記が小説のきっかけになることもあり、彼の才能を信じて後押ししてくれる作家の友人もいた。
こう書いてしまうと、あっけなく終わってしまうが、カフカの苦悩は深い。例えば、本に対する思い。
本とは、ぼくらの内の氷結した海を砕く斧でなければならない。
そしてまた、「書く」ということについての覚悟を綴ったこの文章。
このところ、ぼくは自分についてあまり書きとめていない。多くのことを書かずにきた。それは怠惰のせいでもある。
しかしまた、心配のためでもある。自己認識を損ないはしないかという心配だ。この心配は当然のことだ。というのも、書きとめることで、自己認識は固まってしまう。それが最終的なかたちとなる。そうなってもいいのは、書くことが、すべての細部に至るまで最高の完全さで、また完全な真実性をもって行われる場合に限られる。
それができなければーーいずれにしてもぼくにはその能力はないーー書かれたものは、その自律性によって、また、かたちとなったものの圧倒的な力によって、ただのありふれた感情に取って変わってしまう。そのさい、本当の感情は消え失せ、書かれたものが無価値だとわかっても、すでに手遅れなのだ。
書くことで失われるものの大きさをカフカは知っていた。言葉にした瞬間、選びとらなかったものたちが消え去ってしまうことを。
ここに、カフカが死ぬ瀬戸際まで行きながらも、死なずに追い続けた創作への厳しさを垣間見るのである。
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雨に弦楽四重奏~ドラマ「カルテット」
雨が近づくと気圧の関係なのか頭痛がして熱っぽくなる。昨日の午後そんな感じだったので、今日は雨。傘をさして出かける体力はないので、家で過ごすことにした。
雨の日には、植物が洗われて綺麗に見えるので、本当はお散歩に行きたい。けど仕方ない、あきらめる。
録画してあるドラマか映画を観ようかなと思い、「カルテット」を流す。展開が早すぎず緩すぎずで丁度いいし、配役も気に入っている。松たか子、満島ひかり、高橋一生、松田龍平、もたいまさこ……。
それぞれに秘密を抱えて集まった売れない音楽家4人が、冬の軽井沢の別荘をベースにカルテットとして演奏活動をしていくなかで、少しずつ秘密が明かされていくという設定。脚本は、坂元裕二。
抑えた演技がいい。コミカルで真剣でグッとくるセリフが散りばめられている。映像もきれいだ。もう、終盤に近いけれど、お薦めのドラマである。
(お金はかかるけれど、ティーバというポータルで1話から見られるようです)
第1話より
「同情じゃないですよね。あの人に自分たちの未来を見たからですよね。私たち、アリとキリギリスのキリギリスじゃないですか。音楽で食べていきたいって言うけど、もう答え出てると思うんですよね。私たち、好きなことで生きていける人になれなかったんです。
仕事にできなかった人は決めなきゃいけないんです。趣味にするのか、それでもまだ夢にするのか。趣味にできたアリは幸せだけど、夢にしちゃったキリギリスは泥沼で。
ベンジャミンさんは夢の沼に沈んだキリギリスだったから、嘘つくしかなかった。そしたら、こっちだって奪い取るしかなかったんじゃないですか」
趣味にできたアリと夢の沼に沈んだキリギリスか。なかなかシビアな表現だなぁ。でも、アリだって夢をみていいし、妥協したキリギリスもいるだろう。それで食べていけないからといって、趣味だと言い切れないところが私にはある。売れない歌唄いや詩人や芸人の友だちがいるせいかな……。
詩人の友だちから届いた写真
花の名まえ
パステルカラーのお花のシュシュができました。花びらの色を微妙に変えて、ニュアンスを出しています。刺繍糸やレース糸を使いました。リングゴムに編みつけたレースの萌黄色も気に入っています。
ところで、この花には名前がありません。なので、勝手につけちゃうことにしました。ポリフォニー。ちょっと可愛らしくて多層的で良いでしょう?
調べると、ポリフォニーというのは、二つ以上の異なるメロディが流れるという音楽用語とのこと。文学的には、複数の登場人物の言葉で構成されるドストエフスキーの小説を、モノローグ小説と対比して、ポリフォニー文学の典型としているそうです。多声楽とも訳される言葉。ふむふむ。興味深いですね。
ドストエフスキーかぁ。『罪と罰』は読んだけど、『カラマーゾフの兄弟』は厚すぎるのにびびって、まだ読んでなかったっけ。今度、挑戦してみようかな。
編むのに参考にした本です。
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ふんわり、何となく、わかる。
絲山秋子『ニート』読了。
小説家になった「私」が、昔つき合っていた「キミ」のブログを見て、「キミ」が相変わらずニートであって非常に困窮していることを知る。
「私」もニートだったけれど、「物書きになりたいという夢だけで、世間にずいぶん許してもらっていた」。
「私」には「キミ」がニートでいるしかないことが、ふんわりとわかる。ニートにしかなれないと決めつけているわけではなく、すんなり働けると思っているわけでもない。
ただ、「キミ」がニートでいることが、何となく了解できるのである。この主人公の受け止め方に、私は人間の面白味を感じる。0か1かでなくゆるく受け入れることーー人間は弱い部分を誰しもが持っていて、それに共感できるところが少しずつある。だから、悩んだり、肩を叩き合ったりするんだろう。
この作品は、その辺りの微妙で繊細なこころのあり様を描き出しているように思う。
- 作者: 絲山秋子
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この短編集には表題作の「ニート」のほか、「ニート」の後日談となる「2+1」、女性同士の友情の距離感と切なさを綴った「ベル・エポック」、草野心平の詩が印象的な「へたれ」、スカトロマニアの気だるさが漂う「愛なんかいらねー」が収録されている。
蛙語で綴られる草野心平「ごびらっふの独白」の日本語訳も良かった。
幸福といふものはたわいなくつていいものだ。
おれはいま土のなかの靄のやうな幸福につつまれている。
地上の夏の大歓喜の。
夜ひる眠らない馬力のはてに暗闇のなかの世界がくる。
みんな孤独で。
みんなの孤独が通じあふたしかな存在をほのぼの意識し。
うつらうつらの日をすごすことは幸福である。
皆、孤独を抱えて生きている。でも、それぞれの孤独が通じあうということが確かにあるーーそんなことをぼんやりと嬉しく感じながら、なんとなく生きていく。それは幸せなことだ。
味わい深い詩である。
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