kai8787の日記

編み物と散歩と読書とダイエット

雪国の探偵

私は静岡県で育ち今は東京暮らしなので、雪国の生活は経験したことがない。ものすごく大変なんだろうな。雪降ろしとか雪の中の移動とか。

しかもペーパードライバーで、どこから人が飛び出してくるかわからない恐怖症なので、車の運転は難しい。よって、電車やバスなどの公共交通機関がないと安心できない。

もっとも調子が悪いときは乗り物には乗れないし、調子が良くても乗り物酔いがひどいので、出歩くのは徒歩圏や自転車で行ける範囲がほとんどなのだけれど。

深町秋生『探偵は女手ひとつ』は、雪国・山形を舞台に探偵をしているシングルマザーの椎名瑠美が主人公のお話。探偵というよりも、雪降ろしや農家の手伝い、高齢者のおつかいなどの便利屋の仕事が多いのが現状。

しかし、いったん探偵仕事が入ると元刑事の鋭さと持ち前のバイタリティで事件を解決に導く。その過程でヤンキーやヤクザと渡り合ったり、時には殴られたりしながらも、真実にたどり着く執念は消えない。

全編、山形弁の会話で綴られてるので、何となく主人公に女優・渡辺えりのイメージを重ねてしまった。でも、設定では30代なのだ。扱っている事件は農作物どろぼうから失踪事件、ストーカー対策、セクハラ事件と多種多様。

6つの短編で構成されているが、話の流れがあるので順番に読んだ方がいい。

探偵は女手ひとつ

探偵は女手ひとつ



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軽い読み物が欲しいときもある

家族にも色々ある。関係がこじれているレベルも虐待からささいなケンカまであって、「家族は助け合わなきゃ」というのは正しいようで微妙な言い方だと思う。

有川浩『フリーター、家を買う』は就活や家族関係の修復、助け合いをテーマとした物語。

主人公の誠治は新卒採用された会社を3ヶ月で辞めてしまう。実家で暮らしているのでアルバイトで食いつなぎつつ就活するがなかなかうまく行かない。

一方、大人しい母の様子がおかしいことに気づいたときには、すでに遅く、母は重篤な鬱病と不安障害に陥っていた。姉から母が長年に渡って近所からのいじめにあっていたことを聞いた誠治は一念発起し、母のために動き出す。

フリーター、家を買う。 (幻冬舎文庫)

フリーター、家を買う。 (幻冬舎文庫)

ドラマの台本を読んでいるようにすいすい読める。あらら、嵐の二宮和也主演でドラマ化もされてるとのこと。って私、うっすら思い出したけどこのドラマ、一回分見たことがあるかも。道理で聞き覚えがあると思った。

フリーター、家を買う。Blu-ray BOX

フリーター、家を買う。Blu-ray BOX

有川浩って、「ひろ」って読んで女性なんだ。ライトノベルからスタートした作家さんなのですね。それでかな、とても読み易かった。他には『図書館戦争』とか『三匹のおっさん』とか書いている。
自衛隊をテーマにした三部作もあるんだぁ。男性作家に間違われるのもちとわかる。

人間の深い闇とかを抉るような重厚感はないけれど、ささっと楽しむのにはうってつけの作品だった。

憧れの先輩

あなたには身近な人の中に尊敬したり目標にしたりできる人がいますか?

又吉直樹『火花』は、売れない漫才師・徳永が同じく売れないけれど笑いに対してクレージーといえるほど真正面から真摯に取り組んでいる先輩漫才師・神谷との交友のなかで、喜怒哀楽を味わう物語。

主人公は著者の又吉直樹を彷彿とさせるシャイでトーンの低い漫才師。花火会場での漫才の仕事のとき、ひと際異彩を放つ神永と出会った。その日のうちに弟子入りする。

二人で飲んで話すときの会話はボクサーで言えば軽いジャブを交わすようなボケと突っ込み。そして、神永の笑いへの真っ直ぐな思いが語られる。

徳永はおもろいと思っている神谷が世間から評価されないことに、やるせない思いを抱える。

しかし、神谷は笑いにのめり込むことで、世間からどんどん遊離していく。

二人の芸人の行き着く先は……。

火花 (文春文庫)

火花 (文春文庫)

私にも憧れの先輩がいる。到底その人には及ばないとわかっているけれど、つい追いかけてしまう存在だ。その落差に苦しんでいたときもある。ダメな自分にとことん落ち込んでいた。ただ最近になって、私は私なのだという、ある種の開き直りができるようになってきた。

とても素敵なその人の立ち居ふるまいをそのまま真似ようとしても、どだい無理なのだから、私は私のスタイルを模索するしかない。背伸びしないでありのままの私でいくしかないのだ。

そう考えるようになってから、少しだけ肩の荷が降りたように思う。



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あくまで私の好みですが

私は割とタフな女性が好きだ。イメージとしては天海祐希さんくらい(あくまで役柄のイメージですが)。米倉涼子さんだとちょっと人間離れしていて近寄りがたい。微妙な違いなのだけれど、強さの中にも少々のフェミニンな柔らかさが欲しい。

パトリシア・コーンウェルの「検視官」シリーズはずっと米倉涼子的タフさを持つ敏腕検視官ケイ・スカーペッタが主人公だった。

でも今回の『黒蝿』では、スカーペッタにまるで元気がない。前作で襲いかかってきた不幸の数々をひきずっていて、検視官局長も辞任し、マイアミのデルレイビーチで法病理学のコンサルタントをやっている。

一方でルイジアナの州都バトンルージュで、女性の連続誘拐殺人事件が起こる。

そんな中、スカーペッタのところに、彼女を殺そうとした死刑囚“狼男”から「会いに来て欲しい」という手紙が届く。

黒蠅 (上) (講談社文庫)

黒蠅 (上) (講談社文庫)

黒蠅 (下) (講談社文庫)

黒蠅 (下) (講談社文庫)

今回、私は大失敗していて、シリーズものなのに前作を飛ばして本作を読んでしまった。読み始めてそのことに気づいたのだけど、「まぁ、いいや」と思ってそのまま読んだ。前作で何があったのかは粗方説明されているので、スカーペッタの気弱さや逡巡が理解できる。

いつもと違うテイストで、登場人物一人ひとりを掘り下げていく構成でそれぞれが犯人に迫っていく。

気落ちしているスカーペッタも事件解決に向けて徐々に元気を取り戻す。

ただ、犯人が快楽のためにだけに犯行を重ねるという設定は、私の好みではない。その背景が描かれてないと重層感に欠けるように思う。

アメリカの推理小説やドラマには、怪物のような犯人が出てきて、「私たちと根本的に違う生きもの」として描かれることが多いのだけど、フィクションとわかっていても何だかそれにはついていけない自分がいる。

犯罪者となってしまう人を怪物化すれば、私は単純に「良い人」の一人でいられるけれど、現実の犯行に至るにはもっと複雑で様々な事情や成行がある。そういうところを捉えて追求するような作品が読みたいときもある。

勧善懲悪もし過ぎると、リアリティーが失われて、ミステリーというよりホラーに近くなるということだ。

申し訳ないけれど、私はホラーとジェットコースターが苦手なのです。



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M・クビカ『グッド・ガール』

恋人にすっぽかされたバーで話しかけきた男は彼女の誘拐を依頼されていた。ピストルで脅され森の中のキャビンに閉じ込められたミア。

物語は誘拐前と後をミアの母イヴと刑事のゲイプ、誘拐犯のクリフのモノローグで綴られていく。

最後に明かされる真相は驚くべきものだった。愛されることを強く欲していたミア。クリフの素っ気ない態度の端々にミアに対する気持ちが露になっていく。

救出された後、ミアが記憶喪失になるほどの衝撃をなぜ受けたのか、真相を知って初めて腑に落ちる。

ミステリーの枠に収まらない細やかな心理描写で、登場人物の微妙な内面が映し出されていく。



グッド・ガール (小学館文庫)

グッド・ガール (小学館文庫)



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小説家のエッセイ

小説を読むより先にエッセイを読んでみることがある。どんな人なのかなぁという興味があったりして、エッセイがある作家の場合は、覗き見気分でつい手を出してしまう。

あんまり先入観なしに小説を読んだ方がいいのかもしれない。ただエッセイと小説は全然テイストが異なるので、そんなに引きずられることもない。


川上弘美『なんとなくな日々』は力の抜けたエッセイ集で、作家の日常の一辺が切り取られていく。鋭い観察眼が披
瀝されるわけでもなく、等身大の暮らしが書かれているのだが、ふとした場面で突然異物が現れてくる。「台所は生と死に深くつながる場所」とかどきっとする表現があったり、突然カッパが登場したり。

ごく短い文章で構成されていて、1200字くらいの長さのツイッターを眺めてるような気楽さで読めた。

あとがきに、小説よりもエッセイを書くのが難しいと書いていて興味深かった。

なんとなくな日々

なんとなくな日々

なんとなくな日々 (新潮文庫)

なんとなくな日々 (新潮文庫)




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勝手にふるえました

綿矢りさ勝手にふるえてろ』は何と勢いのあるタイトルなのだろう。初めて読む作家だ。もちろん最年少で芥川賞を受賞したことは知っていたけれど、今まで手に取らなかった。

主人公ヨシカは26歳のOLで恋愛経験なし。中学生の頃から片思いの「イチ」への恋心は日に日に募るばかり。一方、同僚の「ニ」から人生で初めて告白される。

「イチ」があまりに理想化され、久しぶりに同窓会で会っても「あばたもえくぼ」状態が続くのに、「ニ」に対しては冷徹と言えるほどの人間観察をしていて、その対比がおもしろい。

恋というのは、つくづく手前勝手なものだと思う。そして、妄想は雨後の竹の子のようにぐんぐん伸びる。もう自分では制御できないくらいに。逆に周りの人間が凡庸になり色あせていく。

好きのツボが異なるのか、「ニ」への突き放した物言いからだろうか、ほとんど共感できないでいた主人公だったけれど、最後の最後でわっと持っていかれた感じの読後感だった。



勝手にふるえてろ (文春文庫)

勝手にふるえてろ (文春文庫)

勝手にふるえてろ

勝手にふるえてろ



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